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粗大異物のサイズ分布

 

さあ早速ですが前回作成した粗大異物発生装置を使って、発生する異物のサイズを計測してみました。

 

 

グラフの横軸は時刻で、測定は10秒ごとに行っています。縦軸は異物(付着塵)のカウント数で、S/M/Lの3つのサイズに層別しています。

12:35の実験開始直後は実験の段取りのため入室した直後ですので各サイズのカウント数が増加していますが、約30分経過後には空気清浄機の効果もあり、カウント数は安定してきます。

 

念のため更に30分待ってから無線操作でサンディング装置を起動します。

サンディングは#180サンドペーパー上でABS素材の棒を10往復研磨し、この結果発生した異物のサイズと個数を直下の付着塵カウント装置で測定します。サンディング作業は約30分毎に計3回行いました。

 

上のグラフでまず解るのは、サンディングによって増加する異物はLサイズの異物だという事です。Lサイズは250μm以上(ビーズ直径換算)の大きさですので、比較的大きなサイズだという事になります。

更にサイズを細かく層別して眺めてみましょう。

 

 

このヒストグラムはサンディング開始直前(先のグラフで時刻13:35頃の時点)をゼロとして、各サイズの異物カウント数の増分を積み上げたものです。つまりサンディング3回による異物カウント数の合計といういう事になりますが、こうして見ると一目瞭然で1000μm付近にピークを持つ正規分布に近い形になる事が解ります。

この事からそもそも今回の実験を行うきっかけとなった疑問「研磨によって発生する粉塵の粒径分布」の答えは「②特定の粒径にピークを持つ分布」となりました。

 

 

またこの事は付着塵の測定でも250μm以下が観測されていないことからも予想される事ですが、浮遊塵を監視してもこのイベントはキャッチ出来ない可能性が高い事になります。実は実際に今回の実験装置の横に測定装置を置き、同時に浮遊塵を測定していたのですが、5〜50μmの範囲で浮遊塵は測定されませんでした。

 

この事について少し考察をして見ると、今回実施したサンディング→落下の間には異物の凝集という過程があるように思います。つまりサンディングによって発生した異物は摩擦静電気によって凝集し、これがある程度の大きさになった時点で初めて落下するという事で、実際に落下した異物を顕微鏡で観察すると更に小さな異物の集合体になっています。1000μmという予想以上に大きなサイズに分布のピークがあるのもこうした背景があると思われます。

 

今回のサンドペーパーによる研磨では以上のような結果になりましたが、世の中にはこれ以外の発塵メカニズムも多くありますので、今後も随時検証を進めていく予定です。

 

また以前にも何回か述べていますが、こうした付着塵の実験結果はパーティクルカウンター等による浮遊塵測定の重要性を否定するものではない事は繰り返しておきます。これまでクリーンルーム等の管理の中で長年使われてきた浮遊塵の量が一定以下であることは、粗大粒子の管理においても必要条件の一つです。これは例えば体温計のようなもので、体調管理のうえで体温計が(恐らく未来永劫)欠かせないように、クリーン環境の維持のために比較的手軽できる浮遊塵測定はこれからも必須のものです。

 

ただ、体温計で平熱だからといってそれで健康が確認できる訳ではありません(体温計で全て確認できればCTもMRIもいりません)。それと同じく浮遊塵測定である程度のクリーン度である事が確認されても、付着塵の測定では粗大な異物が多数カウントされる事が多いのが実態です。

そうした意味で、体温計もパーティクルカウンターなどによる浮遊塵測定も正常を判断するための「必要条件」の一つですが「十分条件」ではないことは認識しておく必要があります。