【連載バックナンバー】

見える化で進める異物不良対策


第11回 気流の定量化手法  〜表裏両面からの数値化

 

前回ご紹介した各種スモーク類などを使う事で、今まで目に見えなかった気流の実態が把握できるようになりました。しかしながら見た目の記憶だけで1週間後、1ヶ月後の微妙な変化や長期的な傾向に気付けるでしょうか?(私にはあまり自信がありません)。

さあ、ここでもこれまでの連載と同様に、可視化を一歩進めて定量化へと踏み込んで行きましょう。

 

気流の定量化方法

 

気流の定量化でまず外せないのは風速計です。風速計には風車を用いたベーン式、加熱した電線の温度変化を利用する熱線式、他に超音波式などもありますが、異物不良対策のための測定用としては熱線式がお薦めです。理由としてはベーン式の場合、風車の回り始めの回転抵抗があるため微小な風速が計測できないためです。気流改善の現場では0.2m/sや0.5m/sといった微かな風速が重要な意味を持つため、原理的に0.0m/sからの計測が可能な熱線式がベストチョイスとなります。

どの程度の風速範囲を測定できるかを表す測定レンジの選択も重要ですが、私たちの用途では0.0〜20m/s程度まで計測できれば十分でしょう。また風速計のセンサー部には気流を通す方向が指定されており、これを気流の方向と合わせて測定する必要があるのですが、さて目に見えない気流をどうやって正確に合わせればいいのでしょうか?

 

そうです。ここで前回のスモーク類が再び登場します。風速が1m/s程度を越えれば肌に当たる感触などである程度方向もわかりますが、工場内でこんなに速い風速の場所はあまりないでしょう。一般的に改善の舞台で相手にするのは1m/s以下の微妙な気流ですので、風速測定時のスタイルは片手にスモーク発生器などを持って風向を確認しながら風速を測定する事が多くなります。

 

圧力差の定量化方法

 

また前回お話ししたように気流と圧力差は表裏一体の現象ですので、気流を測定するかわりに圧力差を定量化する場面も多くあります。圧力を測定するための装置にも様々な種類がありますので、用途に見合ったものを選択します。まず圧力計はある地点の圧力の「絶対値」を測るタイプと、2点間の圧力差である「差圧」を測るタイプに大別されます。例えば毎日天気予報で耳にするhPa(ヘクトパスカル=100Pa)という単位は皆さんの住んでいる地域の圧力の絶対値を表しています。一方気流の改善に必要な差圧の単位はPa(パスカル)、出来れば0.1Pa単位といった極めて小さな値です。現在絶対圧を計測するタイプではここまで高精度の計器は市販されていませんので、必然的に差圧タイプの測定器(差圧計)を選択する事になります。

さらに差圧計にはアナログ式とデジタル式があります。他の多くの測定器と同じようにアナログ式は比較的安価なことや、数値を直感的に把握できるといった利点があります。またデジタル式は一般的に高精度な事やデータの自動記録が可能な事などの特徴がありますので、用途によって選択します。

 

私がお薦めする事が多いのは差圧を時折チェックしたいがデータ化までは必要ない箇所にはアナログ式、特に重要な箇所で自動記録化も含めて考えたい箇所にはデジタル式の組み合わせです。測定レンジの選択はここでも重要です。差圧の場合マイナス圧力という状況も存在しますので、お薦めのレンジは−50Pa〜+50Pa程度の範囲を測定できるもので、デジタル式の場合は最小測定単位が0.1Paであればベストです。

 

さてここまで来たら、気流と圧力の現状を工場のレイアウト図に書き込む「マッピング」を行なって全体像を見える化してみましょう。

 

 

クリーン化しているはずのエリアに外気が入り込んでいるような箇所は無いですか?クリーン度と気流の整合性が取れていることは異物不良改善の前提条件です。

風速が速すぎる箇所は無いですか?どんなにクリーンなエアでも過大な風速では床面などの埃を巻き上げてしまいます。

気流は私たちが考えている以上に変化しやすいものです。例えば工場外で吹く風や、給気フィルターの目詰まり、水洗式塗装ブースの水位の微妙な変化によっても刻々とその表情を変えていく場合もあります。一度マッピングをしておけば将来問題が起きた時に変化点の把握が可能になります。繰り返しになりますが、こうした記録が無ければ微妙な変化点に気づくことは難しいでしょう。

次回は気流関係の対策について説明します。