【連載バックナンバー】

見える化で進める異物不良対策


第12回 気流関連の対策 〜矛盾の壁を乗り越えるために

 

工程クリーン化のために気流関連の対策を行う場合に忘れてはならないのは、塗装工場には「外と内の敵」が存在する事です。外の敵というのはこれまでの連載で浮遊塵や付着塵として見える化してきたゴミや埃ですが、内の敵とは何でしょう?

 

塗装工場クリーン化の矛盾

 

多くの塗装工場が宿命的に抱える「内の敵」と言うのは塗布工程で発生する塗料ミスト類の事です。塗布工程は工場の付加価値の多くの部分を担う核心部分で、本来最もクリーン度が高い“はず”の場所です。ところが見方を変えればここで発生する塗料ミストは直径数ミクロン〜数十ミクロンの粒子が極めて大量に含まれたクリーン化にとっては悪夢のような存在で、これが常時工場のド真ん中で吹き散らかされているとも言えるのです。このため気流や圧力の調整を誤ると、クリーン化しているはずの工程内に、外気よりも遥かに多くの異物(塗料ミスト)が存在するという悲劇が起きます。こうした塗料ミストは作業者の健康にも悪影響を及ぼすことは言うまでもありません。

 

 

異物を「発生させない」というのはいわゆるクリーン化の原則で必ず出てきますが、これとは真逆の事をおこなわざるを得ないのが塗装工場の矛盾であり宿命です。一般的に言えばこの塗装ミスト問題を解決するためには適切なパーテーション設置と圧力バランスの設定・管理に加え、場合によっては塗装条件の見直しも加えた合わせ技で対応する必要があり改善技術者の腕の見せ所です。

 

また塗装工場にありがちな問題点として全般的な負圧の問題があります。

通常塗装工場では工場設計の段階で給気と排気のバランスが取られている事が多いのですが、その後の生産能力増強などの過程で塗装ブースを増やし、排気ファンを増やし、等々を繰り返しているうちに工場全体が負圧になり、扉や窓を開けるたびに大量の異物が工場内に飛び込んでいるというケースです。こうした負圧問題の解決にはもちろん給気の増強が正解なのですが、様々な制約や費用の問題からすぐにはできないケースも多いのが実情です。このような場合の妥協策として開口を特定の窓などに限定してフィルターを取り付ける事などが現実的な解になることもあります。もちろん扉の開閉時などの侵入を完全に防ぐことは難しいのですが、うまく使えば負圧を逆手にとってクリーンな空気を導入する事ができます。

 

気流対策の原則

 

気流関連対策の原則自体はシンプルです。「適切なパーテーションを設置し、圧力勾配を保つ」事や「気流は極力一方向に流し」、「クリーン度が必要な工程を上流に配置する」事などですが、対策の実行が難しくなるのはそれぞれの対策が一見矛盾した関係になったり、思いも寄らない副作用が発生したりという事が多いためです。それだけに対策に当たってはまず全体像を把握し、前回のマッピングなどで見える化した上で、狙い通りの効果が出ているか、思わぬ副作用がないか等を確認しながら進める必要があります。

局所的な問題に目を奪われると、例えば前述の塗装ミストの問題が起きた場合に、塗装ブースの給気量を上げてブース内のクリーン度を上げると言うような対策が行われる事になります。確かに塗装ブース内のクリーン度だけを考えればこれも正解ですが、その前後工程の汚染による副作用は忘れた頃に確実に現れます。

 

 

これは気流関連の対策に限った話ではありませんが、改善というのはどうしてもこうした副作用も含めたトライ&エラーの繰り返しという側面があります。チャレンジ精神は不可欠なものですし、副作用から学べる事も多くありますのでチャレンジ自体を否定する事はもちろん出来ないのですが、気流関連の対策では給気・排気量の調整程度ならともかく、設備改造ともなると多くの費用が必要となり失敗のコストも大きくなりがちです。こうしたケースではCFD(Computer Fluid Dynamics)と呼ばれるような気流シミュレーション技術を使う事で副作用も含めた改善の結果を事前に予測することが有効です。

 

以前は高性能なコンピュータと高価なソフトウェアが必要で、限られたユーザーしか使えなかった技術分野ですが、最近のパソコンの高性能化やオープンソースソフトウェアの広がりなどで利用のハードルは随分低くなっています。

 

時代も令和に変わった今日、こうした技術の進展が塗装改善に役立つ事例が益々増えてくるでしょう。