【連載バックナンバー】

見える化で進める異物不良対策


第13回 塗料異物の見える化 〜異物混入原因と可視化手法

 

これまでの連載の中で空気中に漂う異物や、素材表面に付着する異物の見える化と対策についてのお話をしてきました。多くの製造工程ではこの2つの要因を押さえれば異物問題についてはまずまず良好な品質が得られる場合が多いのですが、私たちの携わる塗装工程の場合はまだ厄介な要因が残っています。今回は誰もが一度は怪しいと思いながら、なかなかそのしっぽが捕まえられない塗料に混入した異物がテーマです。

 

塗料中の異物とは

 

そもそも塗料中の異物というのはどこから来るのかを順に追って考えてみましょう。

まず塗料の製造工程で混入する異物があります。多くの塗料メーカーではこの異物を除去するために塗料製造の最終盤で入念なフィルタリングを行なっていますが、完全に除去するのはなかなか難しいことです。以前私が経験した事例では一斗缶由来の異物が塗料に混入していたケースもありました。

次に塗料が実際に使われるまでの間には保存期間があり、この間に塗料中の固形分が重力で沈降します。もちろんこれは厳密に言えば“異物”ではありませんが、実際に使用する際に沈降した固形分を十分に撹拌しないといわゆる“ダマ”になったような状態になり、異物不良と同様の不具合となります。また塗料の性質よっては保存期間に反応硬化するものがあり、こうなると攪拌ではどうしようもありませんので、保存環境と期間についても注意が必要です。

続いて塗料が工場に納入されて実際に製造ラインに供給されるまでの間に調合工程があります。ここでも開缶〜調合〜攪拌などの一連の工程で異物が混入する可能性があります。

最後に調合済みの塗料がポンプに吸い上げられた後でも安心することはできません。塗料配管やポンプ内部、バルブ類、塗装ガンなどの塗料経路にも通称“コレステロール”と呼ばれるような塗料硬化物があり、これらが全て潜在的に塗料異物になる可能性を持ちます。

 

塗料異物の問題を少し別の角度から眺めてみましょう。

ある塗装工程の空気中に30μmの異物が100個漂っていたとします。またここで塗布する塗料に同じく100個の異物が混入していたとすると当然ブツだらけの製品が出来上がる訳ですが、この場合どちらの罪が重いでしょうか。

この連載の第4回「浮遊塵」の項でお話したように、空気中に漂う異物は重力で徐々に落下しますが、終末速度以上の気流がある場所では浮遊し続けます。このため100個の異物が漂っていたとしても実際に落下し、さらにその中で“運悪く”製品表面に付着する異物は極々一部です。一方で塗料に混入して塗装ガンから吐出された異物はどうでしょう。もちろんこの場合でも全ての異物が製品に付着する訳ではありませんが、おおよそ塗料の塗着効率に近い異物は付着する可能性が高いでしょう。塗装方法によって違いはありますが、ここで仮に塗着効率30%とすると、100個のうち30個は製品表面に到達して不良を引き起こすことになります。このように塗料に混入した異物は空気中に漂う異物に比べて同じ数でも品質に与えるインパクトが大きいため、この要因を切り分けることが必要となるのです。

 

塗料異物の見える化手法

 

以上のように要注意な塗料異物ですが、これを捕捉するためには金属や樹脂の濾過メッシュを利用して塗料を濾過した残渣を観察します。

 

実務上の最初のポイントはどの番手のメッシュで濾過するかですが、問題となる異物のサイズが明確ならばそのサイズの異物を通さないギリギリのメッシュ番手を選択することになります(本連載第3回参照)。一般的には高光沢の塗料の場合#400〜600程度、通常のエナメル塗料の場合#200前後から選択する場合が多くなります。

 

 

次にどの時点で濾過するかもポイントですが、最初は塗装ガンから吐出された直後の塗料を濾過してみる事をお薦めします。様々な工程・経路を経たこの最終段が塗料の真実の姿です。とは言ってももちろんスプレーされた塗料を濾過することはできません。圧送式の塗料供給システムの場合、霧化エアやパターンエアなどを切った状態で塗料だけを吐出・濾過します。その後必要に応じてシンナーで洗浄・乾燥した後に残る異物を目視や顕微鏡で観察してみましょう。

 

 

何が出て来ましたか?一見して何も見えない場合にはフィルター裏面からの透過光で観察した方が見えやすいかもしれません。経験上、塗料のクリーン度に問題が無いのは極めて稀なケースです。