【連載バックナンバー】

見える化で進める異物不良対策


第16回 圧縮エア関連の対策

 

前回ご説明したように圧縮エアに求められる品質は多岐に渡ります。このため全ての対策についてここで触れることは出来ませんが、今回は圧縮エア関連の代表的な対策について考えてみましょう。

 

水分・油分への対策

 

圧縮エアに水滴が混入して不具合が発生する場合、その根本原因は圧縮エア中の水蒸気です。もちろん空気中に水蒸気が含まれる以上、これを圧縮したエアにも水分が含まれるのは当然なのですが、その圧縮エアから水分を取り除く(=露点温度を下げる)ためにドライヤーと呼ばれる装置が使われます。ドライヤーというと高温の送風によって髪などを乾かすヘアドライヤーがおなじみですが、圧縮エアの除湿に使われる事が多いのは冷凍式ドライヤーです。これはヘアドライヤーとは逆に温度を下げることによって除湿を行う装置で、エアコンに近い仕組みを持っています。このため冷凍式ドライヤーで露点温度が思うように下がらない場合には、エアフィルターや冷却フィンの清掃、ドライヤー設置場所の換気や直射日光の遮蔽などで冷却能力が改善できる場合があります。この他に冷媒漏れによる能力低下にも注意が必要です。

 

 

またコンプレッサー内部の潤滑のためにオイルが使われています。最近は油分混入の心配が少ないオイルフリータイプのコンプレッサーも増えていますが、まだまだ従来型のコンプレッサーが多いのが実情です。

 

添付の圧縮エアシステム例ではコンプレッサー直後のラインフィルターや使用点のフィルターがオイル対策となっています。またこの例ではドレンバルブは1箇所だけ記載されていますが、実際にはシステム各所に設置されていますので、ここから適時オイルや水分を排出する事が重要になります。ドレンバルブは手動で開閉するタイプの他に、ドレンが一定量溜まった時点などに自動的に排出するタイプもあります。自動ドレンバルブは確かに便利なのですが、基本的に開閉頻度が低いため故障していてもなかなか気づきにくい部分です。レシーバータンクの自動ドレンが故障してタンクの中が油で一杯などという笑えないケースもありますので、自動ドレンの動作も適時チェックしましょう。適切な管理を怠った結果、配管が一度オイルで汚染されてしまうとそれより下流のフィルターに負担がかかり交換コストが増大する事もありますので、地味ながら工場の設備保全能力が試されるポイントです。

 

圧縮エア清浄度の規格

 

以上のような圧縮エアの清浄度全般に関する規格はJIS B8392-1に定められていますので、今後はこうした規格に基づいた管理がますます一般的になって来ると思われます。この規格では固体異物量・露点温度(水分量)・油分量について定められており、例えば“等級1・4・2”などという表記になりますが、3つの数字がそれぞれ異物量・露点温度・油分量のレベルを表しています。実際に圧縮エア関連で起こる不具合で多いのは油分などに起因するハジキや凹みなどの表面張力に起因する不具合であることも多く、その場合には表面張力を直接見える化する手法も使って対策を行いますが、まずは皆様の製造工程で必要とされる圧縮エアがJIS規格上どのレベルかを明確にして、それに見合ったフィルターシステム等を導入し維持管理する事が圧縮エア品質改善の定石になります。

 

この他に圧縮エアの「圧力」も重要な品質です。工場では生産能力の向上や品質改善を目的にエア機器の増設が行われる事も多く、徐々にエアが不足する傾向があります。塗装スプレーが息継ぎするように見えたりパターン幅が変動したりするような場合や、塗肌や塗膜厚が安定しない場合にはエア圧力の安定性も疑う必要があります。

 

このような配管末端で発生する圧力問題は、もちろんコンプレッサー本体の圧力表示を見てもわかりませんので、可能な限り使用点に近い場所で連続的なデータを取得して判断します。添付のグラフは塗装ブース内で実際のエア圧力変動を記録した結果です。

 

約1時間という比較的短い時間の中でも塗装スプレーON時の突発的な圧力降下に加えて長期的な圧力変動がある事がわかると思います。もちろんこの程度の圧力変動であればレギュレータで調整されますので問題とはなりませんが、更に変動幅が大きくなった場合にはリザーブタンクや増圧補助装置の設置、最終的にはコンプレッサー本体の増強などを検討する事になります。