【連載バックナンバー】

見える化で進める異物不良対策


第18回(最終回) 全体像の見える化と3現主義

 

塗装工程の異物不良対策の難しさは、原因となる異物が小さく普通の方法では目に見えないことから、問題発生→応急処置→問題再発→応急処置・・・の、モグラ叩きのようなループに陥りがちな点にあります。この状況を打開するためにこの連載では駆け足ながら、異物可視化をはじめとした様々な見える化手法をご紹介してきました。お金をかけずに出来る手法も多くありますので、皆さまの現場でも利用して頂けると改善の手がかりが掴めると思います。

 

木を見て森も見る

 

 

また、異物不良が他の多くの不良事象と異なるのは、発生要因が多岐にわたり工程内のどこででも発生する危険性がある事象であるという点です。このため問題の構造が複雑で、改善の方向性を見失い迷子のような、いわば「木を見て森を見ず」の状況に陥る事も少なくありません。個別の要因(=木)を見るためには本連載の見える化手法が役立ちますが、一方の「森」を見るためには問題の全体像を捉えて優先順位をつける必要があります。

 

 

一例として添付のレーダーチャートは私が工程診断の際に使用しているフォーマットから抜粋したものですが、これまで本連載でご紹介してきた各項目(四角枠)の測定データや、クリーン度改善の原理・原則に沿った諸項目について評価した結果が統合されています。このような形で全体像を俯瞰してみると多くの工程では問題が一様に存在するのではなく、凸凹を伴ったチャートになります。添付の例では「塗料中の異物」が凹になっており、ここが弱点であることが明白ですので、優先度を上げて改善を進める事になります。

 

ここで要注意なのがこの「弱点」は生き物のように動き回るという事です。主に生産管理などで使われる概念に「制約理論」がありますが、この理論では工程全体の処理能力が特定の工程(ボトルネック=弱点)に依存する事を示しています。そのため処理能力を向上させるには工程全体を総花的に改善するのではなく、ボトルネック工程にフォーカスする重要性を説くと共に、改善が進むに従いボトルネックは移動する事を明らかにしました。異物不良でも改善が進んで一つの弱点が克服されるとボトルネックは次の弱点に移動します。このように移動する問題点にフォーカスして改善のサイクルを回し続けるけるためにも全体像の把握は必須です。一つの改善が成功すると同じポイントを更に深掘りしたくなる誘惑もありますが、それで効果が上がらない場合はすでに犯人(弱点=ボトルネック)は逃げた後かもしれません。一度問題の全体像を俯瞰し直してみましょう。

 

見える化と3現主義

 

最後にもう一つ強調しておきたい事があります。見える化による改善というと現場から離れた場所で計器やデータを眺めながらスマートな改善が可能になるという印象を与える事があるようなのですが、残念ながらこれは誤解です。実際には見える化を進めるほど「違和感」が多くなるかもしれません。この違和感というのは端的に言えば見える化によって得られたデータや数値と、実際の製品品質や現場で感じる空気感などの間に存在する差異のことです。一つの事象が見える化されることによって、複数のまだ見えていない点に気付かされることも少なくありません。

 

 

「見える化(可視化・定量化)する」→「現場に行く」→「違和感に気づく」→「違和感の原因を追求する」→「更に見える化を進める」・・・というスパイラル状のループは、見方によっては同じ事の繰り返しのように見えるかもしれませんが、本当に同じ所を堂々巡りする冒頭の「モグラ叩きループ」とは本質的に異なる事はご理解頂けると思います。

 

 

そしてこのループは見える化と3現主義が両輪となっています。どちらが欠けてもループは回りません。今回の連載でご紹介した手法やツールは現場に持ち込み、時に手を汚しながら使って頂く事でこそ真価を発揮します。

 

私がお客様の工場を訪問すると、多くの方が異口同音に「こんな単純な事に何でもっと早く気付かなかったのだろう?」というお話をされます。見えてしまえば個別の原因の殆どは至極単純な事象です。決して難しいことではありません。見えない事が問題なのです。

 

異物不良が「永遠の課題」となり、本来大切な利益となるはずの労力や時間が不良品に吸い取られ続ける状況に歯止めをかけるために、この連載が皆様の改善の一助になれば幸甚です。(了)