【連載バックナンバー】

見える化で進める異物不良対策


第2回 直行率・不良率の見える化と“痛み”の共有

 

私たちが健康診断に行くと身長・体重・体温・血圧などの基礎的データが計測されるのと同じように、本格的な改善活動を始める際には直行率や不良率などの基礎的な品質データを集計し、工場の健康状態を見える化する必要があります。

 

見える化が必要な品質データ

 

 

塗装工場の基礎的な品質データの代表として直行率や最終良品率(歩留まり)などがあり、これらは「品質の良さ加減」を示す指標です。一方で手直し率や廃棄率、あるいは不良率のような「品質の悪さ加減」を示す指標もあり、それぞれの関係は下図のようになります。

 

皆様の工場でも工程の特性に合わせていくつかの品質指標を使用していると思いますが、これから本格的に品質改善を推進する場合に私がお薦めするのは直行率・手直し率・廃棄率の3点セットで、この3つを押さえておけば工程の基本的な健康状態が把握できます。

またこれらの品質データは「鮮度」が重要です。当日の加工結果が翌朝にフィードバック出来れば、改善のPDCAサイクルを毎日回すことができます。

一般的に検査にはタイムラグがありますので、当日の検査結果を翌朝にまとめるのは工夫が必要ですが、仮にフィードバックが翌々日になれば、改善サイクルは2日に1回しか回せない事になります。これは改善スピードが半分になる事ですので、ここは検査部門の腕の見せ所です。

 

工場メンバーで共有する“痛み”

 

更に、品質指標を把握するもう一つの重要な意義として、これらから損失金額が計算できる点があります。

直行率や不良率はもちろん大切で、改善の方向性を示してくれる重要な道標なのですが、見方によっては無味乾燥な数字の羅列になってしまうことがあります。

これを工場のメンバー全員が肌触りとして感じられる金額に換算することで、不良品によって奪われているのは単なる数字ではなく、本来メンバーの給与や将来のための投資として活用されたはずの大切なお金だという事実を、実感を伴った“痛み”として共有することができます。

また損失金額がつかめれば、不良を改善するためにかけられる投資金額の目処をつけることもできるでしょう。

 

塗装工場の不良品による損失金額は「廃棄による損失」と「手直しによる損失」に分類することができます。

厳密に言えばどちらの損失も不良品が発生した時点や、不良の程度によって処理費用が変動するため、正確な金額を算出するためには相応のシステムが必要になりますが、こうした仕組みがない場合には出来るだけお金や手間をかけずに、まずは手に入る数字から概算値を掴むことをお薦めします。

例えば廃棄損失金額は販売単価×70%、手直しの場合は販売単価×30%などとすれば、先の廃棄率や手直し率から簡単に損失金額が概算できます。手直しの方法が複数ある場合は、例えばリコート(再塗装)ならば40%、バフ修正ならば20%などと分類すれば更に精度が上がります。

 

もちろんこれらの割合(%)は工法や設備によっても変化しますので、あらかじめ経理部門と協力して各割合を算出しておけば、更に精度が高い損失金額が得られます。

このようにして損失金額を計算してみると、不良品によって極めて多くのお金が奪われている事に驚くことがあります。毎月1000万円程度の売り上げの工場で、数百万円/月単位の流血が続いていることも少なくありません。

皆様の工場は如何でしょうか?

もし今現在の損失金額が把握されていないようでしたら、まずは1ヶ月に一度でも算出して工場メンバーと共有してみて下さい。

 

ところで、今回のテーマである品質指標と今後の連載で取り上げる様々な見える化手法との関係を登山に例えると、品質指標はGPS(または地図・コンパス)に相当するものです。

初めての道や見通しのきかない場所でGPSなどの装備が無ければ道に迷う可能性があります。最悪の場合遭難してしまうかもしれません。

一方でどれだけGPSが高性能になったとしても、これだけを見ながら行動できる訳ではありません。目視確認なしでは足元の岩につまずいたり、崖下に転落したりということになるでしょう。

登山の場合の目視確認に当たるのが、品質改善で用いる様々な見える化手法です。品質指標(GPS)と見える化手法(目視確認)を常にセットで活用しながら改善の道のりを進む事で、最も早くかつ安全に目標に到達することが可能になります。