【連載バックナンバー】

見える化で進める異物不良対策


第6回 浮遊塵の対策  〜変えなければ変わらない

 

前回まで異物不良要因のひとつ「浮遊塵」の見える化手法についてお話をして来ましたが、この段階ではまだ「問題が見えた」、「課題に気付いた」だけですので、もちろんゴールではありません。具体的に何かを変えてその効果を確認する必要があります。

 

クリーン化の原則と現実

 

異物対策によく用いられる考え方に「クリーン化の4原則」があります。これは異物を「持ち込まない」「発生させない」「堆積させない」「排除する」などの各原則から対策を組み立てていくもので、必要な対策を漏れなく行うための地図になります。私はこの4原則に塗装ミストなどの異物を「拡散させない」「付着させない」という視点を加え、これらに本連載の初回で説明した異物の4つの侵入経路「浮遊塵」「付着塵」「塗料」「圧縮エア」を掛け合わせる事で異物対策の全体像(マトリックス)を作ることをお勧めします。

 

 

異物対策はこうした全体像を捉えながら、漏れなくバランスよく進める必要がありますが、塗装工場では原則と現実の間に矛盾が発生する場合があります。例えば最大の異物発生源でもあるスプレー工程が工場の真ん中にあることや、そのミストを排気するための負圧で異物を多く含む外気を工場内に引き込みやすいなどのジレンマです。良かれと思って行った改善が逆効果になる場合もあります。こうした悲劇を防止するのも見える化手法の役割です。改善を行ったら、「良くなったはず」で終わらせずに必ず結果を目で見て確認しましょう。

 

浮遊塵を「持ち込まない」ために

 

さて浮遊塵関係の対策だけでも多岐にわたりますので、今回は「持ち込まない」点に絞って考えてみたいと思います。

この観点での浮遊塵の侵入経路は、やはり外気の侵入に伴って異物が工程内に入り込む経路が最大の課題です。これを遮断するための基本は適切なフィルターを介して給気を行うと共に、工程内の圧力管理を行うことです。

現実には塗装工場の場合、前述のように工場内の負圧によって外気を引き込むケースも多いのですが、このような場合でも外気の侵入口を限定し、そこにフィルターを設置するなどしてクリーンな空気を導く、いわば弱点を逆手に取って改善を行う事でお金をかけずに対策を行う事ができます。

こうした気流関係の対策は奥が深く、気流の見える化手法と組み合わせて対策を進める必要があるため、詳しくは稿を改めますが、浮遊塵対策の大原則は適切なフィルターの使用と圧力管理になります。

 

「持ち込まない」で次に要注意なのは人による持ち込みで、その多くは私たちが着用する衣服由来のものです。ここで一つ確かめて頂きたいのですが、前回までに説明したような可視化手法、例えばLEDライトなどを使って作業服を手で叩いた時にどれだけの異物が飛び出すかを目で見て下さい。初めてご覧になる方は驚愕する程の異物が発生すると思います。ここに塗装作業での防塵服の重要性がありますが、それでは防塵服を着れば全てOKなのでしょうか?既に防塵服を着用している皆さんは同じテストを防塵服で行ってみて下さい。意外に多くの異物の発生を目にされると思います。

一般的な作業服を叩いた場合の異物は作業服自体の繊維が分離することによる発塵に加え、周囲のゴミが付着していたものが離脱することや、肌などに付着した異物が繊維をすり抜ける事によって発生します。

 

防塵服の場合、繊維自体の発塵や裏側からのすり抜けは大幅に少なくなりますが、周囲のゴミやホコリが付着するという点については完璧ではありません。もちろん普通の衣服に比べれば付着量が少なくなるように配慮されているのですが、それでも実際に目でみれば防塵服は「無塵服」ではないことが理解できると思います。そこで重要になるのはエアシャワー・洗濯・保管環境などの周辺状況の整備です。もちろん基本的な着用ルールが重要なのは言うまでもありません。

 

 

今回は浮遊塵の代表的な対策の一部ですが、是非皆さんの目で確かめながら改善を進めて下さい。繰り返しますが見える化の手法は問題発見に有効なだけではありません。対策の効果確認や改善後適切に維持管理されているかどうかの判断にこそ威力を発揮するものです。

 

 

お伝えしたいことはまだ多いのですが、今回で浮遊塵のお話は一区切りと致します。次回からは浮遊塵の仲間でもある「付着塵」の見える化手法や対策へと章を進めて参ります。