不良率をはじめとした工程品質を表す数値は、改善活動の羅針盤となりますので、これを見える化し、メンバー間で共有している工場現場は多いと思います。
一方でこれらの不良品は経済的な損失を生んでおり、本来会社の利益や従業員の所得になっていたはずのお金を奪い取っている事は言うまでもないのですが、この損失金額を計算してメンバーが受ける「痛み」としてタイムリーに共有している現場は、経験上あまり多くないようです。
これはこうした損失金額を現場の目立つ場所に掲示するのが躊躇されるという事の他に、日々の製造原価を厳密に把握している場合を除き、計算に手間がかかるという理由があるように思います。
今回はこの損失金額について考えてみたいと思います。
不良品による損失金額は、それを「廃棄」するか「手直し」するかによって変わってきます。
「廃棄」の場合は、文字通り製造原価のほとんどを文字通り廃棄する事になりますので、(金額的には非常に痛いですが)計算は比較的簡単です。
仮に製造原価が売価の70%だとすると、売価×0.7×廃棄個数で計算できる事になります。場合によっては製造原価に含まれる固定費の勘案や、廃棄物処理費用や保管費用、金利などを合算する必要があるかもしれませんが、ここでは話を単純にするために売価の70%としておきます。
一方「手直し」の場合には、主に手直し工程(塗装工程の場合、研磨・再塗装・バフ工程・再検査など)の労務費、ラインチャージ、副資材の材料費などがかかってきます。
不良の程度(1個かor 多数か)や、修正方法(再塗装 or バフ修正)によっても処理単価が変動するため計算が難しく、最も見えにくいのがこの「手直し」による損失金額かもしれません。
再塗装を行う場合、研磨工程での研磨粉の付着や作業者の接触が避けられず、一般的に直行品と比べて品質が劣るため、何度も再塗装を繰り返す事になり、よくよく計算をしてみると結局不良品は廃棄して新たな素材を加工した方が安かった、などという事もあるため要注意です。
さて、先ほども述べたように不良の程度や・工程の構成・素材単価によっても変動しますが、一般的には「手直し」費用は「廃棄」損失よりは安くなり、経験上以下のような費用イメージになる事が多いようです。
◆再塗装の場合 :売価の30〜50%(ここでは中間の40%とします)
◆バフ修正の場合:売価の10〜30%(ここでは中間の20%とします)
以上をまとめると以下の計算式となります。
◆損失金額①=売上金額 ×(廃棄率×0.7 + 再塗装率×0.4 + バフ修正率×0.2)
更に簡略化した計算方法として、再塗装率とバフ修正率が不明で、手直し率のみ分かっている場合、40%と20%の中間の30%をとってみます。非常に大雑把な計算ではありますが、まずは手元にある数字で答えを出すことも大切です。
◆損失金額②=売上金額 ×(廃棄率×0.7 + 手直し率×0.3)
この式を毎月1000万の売上のある工程で廃棄率3%、手直し率15%の場合にあてはめると、以下のような計算となり66万円の損失が毎月続いているという事になります。
◆損失金額② = 1000万円 × (0.03 × 0.7 + 0.15 × 0.3)
= 66万円 / 月
また、この計算式を別の角度から見ると、廃棄率と手直し率それぞれ1%改善できた場合に得られる金額が算出できます。
◆効果金額(廃棄率1%当たり) :1000万円 × (0.01 × 0.7) = 7万円 / 月
◆効果金額(手直し率1%当たり):1000万円 × (0.01 × 0.3) = 3万円 / 月
廃棄率と手直し率をそれぞれ1%ずつ改善できれば、毎月10万円が得られる事になります。年間では120万円となりますので、3年償却での投資を考える場合360万円をかけても、廃棄率と手直し率をわずか1%ずつ改善できれば投資分は回収できる目処が立つ事になります。(金利等は除きます)
以上、今回は痛みの共有のための損失金額の算出に焦点を当ててみました。
今回計算式に用いた数値(製造原価率や修正単価)はこれまでの私の経験から設定していますが、計算の精度が必要な場合多少手間はかかりますが、一度原価分析を行えばそれぞれの現場にとって適切な数値が得られ、当分の間これを使って計算を行う事ができると思います。
最初に述べたように、損失金額をメンバー間で共有している現場はまだ多くはないのですが、これを行なっている工場は品質レベルも高い事は実感としてあります。
これが因果関係なのか、単に意識が高い工場では品質も高く、見える化も進んでいるという事なのかはわかりませんが、誰にでも手触りとして感じる事が出来る金額という単位で共有することが、メンバーの意識を引きつけ、改善の原動力の一つになることは充分有り得ることだと思います。
もし、まだ損失金額の計算と共有を行なっていない現場がありましたら、まずは手持ちの数字から簡易的にでも「見える化」してみてはいかがでしょうか。