【連載バックナンバー】

見える化で進める異物不良対策


第9回 付着塵の対策  〜予防するか?後で取るのか?

 

これまでお話ししてきたように塗装製品の異物不良に直接影響を及ぼすのは表面に付着した数十μmオーダーの異物である事が多く、こうしたサイズの付着塵を如何にコントロールできるかは高い品質、ひいては高収益を実現するための必須課題です。今回は付着塵の対策編です。

 

付着塵の予防

 

 

まず取り組む必要があるのは、異物が付着する可能性を減らす事です。後ほど説明するように一度付着してしまった異物を除去する事は困難な場合が多いためですが、これにはまず粗大な異物が重力で落下する性質を逆手に取って、一度落下した異物を二度と舞い上がらせない処置が有効です。多くの塗装現場で行われている水撒きがこれに当たりますが、表面に凸凹がついた「保水マット」などを用いる事で水撒きの効果を長時間維持する事ができます。

 

 

定期的な水撒きが難しい場所には粘着剤を塗布する事で落下異物を捕捉する事もできます。いずれの場合も安全面での滑り止めと、設備等の防錆対策を同時に行う必要があります。

 

空中に浮遊している段階で粗大な異物を捕らえるためにはネットなどに粘着剤を塗布して設置する事が有効で、空気の流れを考慮してネットを配置すれば更に効果が大きくなります。異物が付着したネットは定期的に洗浄して再利用する事もできます。

こうした付着塵の予防は若干手間がかかるのですが、最もコストパフォーマンスが高い方法でもあります。実際に空気の流れを把握して適切な位置に粘着ネットを配置し、しっかりと水撒き等を行なっている現場は品質レベルが高い場合が多いのは事実です。

 

付着予防という観点では静電気の除去も欠かせません。除電方法には大きく分けてイオナイザーに代表されるコロナ放電方式、除電ブラシなどによる自己放電方式、液体を含ませた布などで素材表面を拭き取ることによって静電気を逃がす方法などがありますが、比較的手軽に利用できて塗装素材として十分なレベルにまで帯電量を低下させる事ができるという点でイオナイザーが選択されるケースが多くなると思います。多くのイオナイザーは定期的なメンテナンスが必要な機器ですので、この点もどうぞお忘れなく、

 

付着してしまった異物の除去

 

こうした予防措置を行っても工程内で付着してしまったり、納入された素材が元々汚れていたりする場合などに悩ましいのが付着異物の除去方法です。最適な除塵方法は付着している物質や汚れの度合い、素材の性質によっても違いますが、ベストな方法を導き出すために失敗事例を見てみたいと思います。

まずコンプレッサーエアによるエアブローだけで除去している場合、異物が素材表面に粘着していたり、前述の静電気の影響を受けていたりする事で十分に除去できていない場合があります。こうした除塵の良否は可視化の項で紹介したLEDライトで可視化する事で簡単に把握できますので、是非現場で確認して見てください。

 

拭き取り作業によって異物や油分の除去を行う工程も多いと思いますが、ここでも注意が必要です。特に液体などを用いたウェット拭きでは拭き始めや拭き終わりの場所に異物が多く残り、いわば異物を隅に寄せているだけという残念な結果になっている事がままあります。またウェット拭きで残った異物は液体が接着剤のような役割を果たし、エアブロー程度では落とせなくなるケースもあります。

 

このような除塵作業の副作用と言えるような問題もある事から、一度付着した異物の除去というのは奥深いテーマになってしまうのですが、まず比較的軽度の汚れの場合に私がお勧めする事が多いのは、①クリーンワイパーやブラシなどで表面に付着した異物を剥がし→②除電エアブローで仕上げる方法です。

更に素材の汚れがひどい場合など、何らかの理由で溶剤などによるウェット拭きが必要な場合には①ウェット拭き→②表面乾燥→③ウェスやブラシによるドライ清掃→④除電エアブローの順番になります。もっと汚れが著しい場合には①の前にまず事前エアブローを行うなどのアレンジが必要なケースもありますが、いずれにしても実際に可視化しながら検証していく事でそれぞれの工程に最適な方法を見つける事が出来ます。

 

 

以上のような付着塵除去にまつわる問題は多くの工程が抱える悩みですが、本筋から言えば上流工程で付着したホコリや異物で下流工程が苦労するというのは本来あるべき姿ではないでしょう。他の多くの問題と同じように、付着塵の問題もより上流で対策を行った方がサプライチェーン全体のコストは下がるというのが原則です。付着してしまった異物をどうやって除去するかではなく、いかにして付着自体を予防するかに知恵と工夫を傾けたい所です。