【連載バックナンバー】

見える化で進める異物不良対策


第14回 塗料異物の対策

 

前回ご説明したように塗料には様々な要因で異物が混入する可能性があり、一度塗料に混入した異物は空気中に浮遊する異物などと比べて高い確率で不具合を引き起こします。そこで塗料に混入した異物への対策が重要になって来ます。

 

塗料の濾過

 

塗料などの液体に混入した異物を除去するための方法として代表的なのはフィルターなどを使った濾過です。塗料の濾過で一般的なのは塗料の自重を利用して濾過を行う重力濾過方式で,

この方式の特徴としては装置が簡単な事の他に、比較的マイルドな力で濾過するため、塗料の半硬化物(ゲル物)などの柔らかい異物もしっかり濾過できる反面、粘度が高い塗料では目が細かいフィルターを使いにくい点がデメリットとなる場合があります。もう一つの方式が供給ポンプなどで加圧された塗料の圧力を利用して濾過を行う加圧濾過方式で、高い圧力がかかるため圧力損失の大きい目の細かいフィルターでも短時間で濾過する事ができます。反面ゲル物などの柔らかい異物は、丁度トコロテンのようにフィルターの開口から押し出されてしまうため、完全な除去は難しいというデメリットがありますので、それぞれの特徴を生かした濾過を行う必要があります。

 

塗料供給のどの段階で濾過を行うかという選択にもいくつかあります。まず一般的な手法して塗料調合後、供給タンクに移す前に重力濾過を行っている工場は多いと思います。ここで確認ですが、ここでの濾過にはどのようなフィルターを使っているでしょうか。日本では昔からの漆塗装の伝統からか、まだ和紙系の濾材を使っているケースがありますが、少なくとも異物不良の改善に取り組んでいる工場ではこの選択はNG です。理由はこうした濾材はそれ自体からの発塵が多く、せっかくの濾過作業が逆効果になっている場合が多いためで、ここでの濾過作業に適しているのはステンレス製またはポリエステルやナイロンなどの樹脂製フィルターです。ただしこうした濾材にも落とし穴がありますので、ここでも見える化して確認しましょう。浮遊塵の可視化の項でご紹介したLEDライトなどの上で現在お使いのフィルターを振ってみてください。恐らく多くの異物が発生すると思います(和紙系のフィルターをお使いの場合も是非お試しを。大量に落下する異物にゾッとするでしょう)。

一般的なフィルターでそれ自体のクリーン度を保証している製品は多くありませんので、フィルターの製造工程などで付着している異物があるのはごく普通の事です。こうした異物の塗料への混入を防止するために、使用前に入念にエアブローなどを行うことは必須です。

 

配管経路での濾過

 

次に塗料が供給タンクから吸い上げられてポンプなどを経由して塗装ガンに至る塗料配管の中で濾過を行うこともあります。

 

 

 

こうした濾過は前述の加圧濾過方式になりますので、ゲル物の除去には弱い部分もありますが、より製品に近い位置で濾過ができる点は魅力です。極端に言えば供給する塗料や配管が汚れていても、塗装ガンの直前で確実にフィルタリングが出来れば、一定の塗料品質は確保できるとも言えますが、この考え方にはいくつか注意点があります。まずフィルターの汚れが極端に多くなると圧力損失が大きくなり塗料吐出量が影響を受ける場合があります。またメンテナンスを確実に行わないとフィルター自体から異物が発生しているという本末転倒の事態を招くケースがあります。こうした事から配管内での濾過はあくまで緊急回避的な手段で、「クリーンな塗料」を「クリーンな配管系統」に通して製品に塗布するというシンプルな状態があるべき姿だと言えます。

 

以上を踏まえて塗料異物改善の手順をまとめると、まず前回の塗装ガン先での塗料濾過テストを行い、問題がある場合は供給塗料と濾材の点検を行います。ここで問題がなければ塗料配管内での混入が疑われますので、配管内フィルターのテストや配管の洗浄・交換などを行いながら効果の検証を行います。ここでも効果の有無は塗装ガン先などから採取した塗料濾過の結果で検証する事で他の要因としっかりと切り分ける事ができます。

 

もし前回の濾過テストがコスト面で躊躇されるようでしたら100円ショップでも入手可能な油濾し紙などで異物の存在が確認できる場合もあります。まずは「見える化」です。とにかくやってみましょう。