2017年の最初のトッピクスとなる今回は、少し夢のある話を書きたいと思います。
最近、良く耳にする言葉にIoT(アイ・オー・ティー)があるかと思います。
既に御存知の方も多いかと思いますが、これはInternet of Thingsの略で、ざっくりと言うと、身の回りの電気製品などが、インターネットを通して繋がるというような意味になるようです。
実際にはこうしたコンセプトは、これまでも何度か名前を変えて話題に上る事がありましたが、どちらかというと一時的な流行といった印象のものに終わる事が多かったように思います。
例えば1980年代のTRONプロジェクトや、1990〜2000年代に流行したユビキタス・コンピューティングといったキーワードを覚えておられる方も多いと思いますが、今回のIoTもこれらの直系コンセプトという考え方もあるようです。
実際それらの考え方には多くの共通点があり、その点で言えばTRONやユビキタスも、単なる流行語ではなく、歴史的には一定の役割を果たしてきたと言えるかと思います。
IoTが(言い方は悪いですが)先輩コンセプトのように一時的な流行で終わるのか、或いは10年〜20年後に、「ああ、あの時代がIoT元年だったね」と言われるような普及を果たすのかはまだ判りませんが、多くのIT企業がIoT関連の投資を進めている現状を見ると、そろそろ普及期を迎えるのかもしれません。
さて、この話と「見える化」がどう結びつくかという事ですが、IoTは見方を変えると「巨大なセンサーのネットワーク」を構築する事とも言えるようです。
このためIoTの発展と歩調を合わせるように、センサー類の高性能化と低コスト化が進んでおり、一昔前では考えられなかった様な高性能なデバイスを、インターネット経由で世界中から入手できるようになっています。
またセンサーの情報を処理する装置も安価で高性能もの増えており、何より様々な開発ツールやコミュニティーによって、これまで電子回路の知識を持たなければ手が出せなかった、オリジナル測定装置が簡単に作れるようになりつつあります。
今回の冒頭写真はこのような手法で製作した、コンプレッサーエア品質を定量化するための装置で、圧力センサーで測定したエア圧力をマイコン経由でSDカードに記録します。
実際にはこの他にも色々な機能があり、短時間にエア品質を調査できるように工夫していますが、センサーとマイコンの基本部分は非常に安価で、圧力センサーは1,260円、情報処理用のマイコンに至っては360円です。
またこの装置は現在バージョン3.0ですが、バージョン1.0の初期モデルから約半年で、現場での使用結果を踏まえ、色々な機能を組み込み、最小限のパッケージとしてまとめています。
こうしたコンパクトなパッケージングに威力を発揮するのが3D-CADを含めた3Dプリンターのシステムで、これと先のIoTデバイスを組み合わせる事で、電子回路設計・プログラミング・パッケージングのトライ&エラーを含めたPDCAが、従来考えられなかったスピードで回るようになっています。これが今回のテーマである「プロトタイピング」の考え方でもあります。
こうした流れを「技術の民主化」と捉える考え方もあるようです。
実際、これまで一部の資金力が豊富な企業・組織に限られていた、独自の測定装置開発を、多くのエンジニアが行えるようになり、それぞれの現場に本当に必要な測定器が生み出される事で、これまで誰も気づかなかった事象が見える化される事が増えて行く事を考えると、そういう側面もあるのでしょう。
現在のIoTブームには1980年代初頭のパソコン黎明期と同じ雰囲気を感じる事があります。
個人的には当時一部のマニアのオモチャに近かったワープロや表計算が、10〜20年後には必須のスキルになったように、こうしたプロトタイピングの考え方が10年後のエンジニアの必須スキルになるのではないかと考えていますが、さてどうなる事でしょうか。