前回このコーナーでご紹介したAPC(付着塵カウンター)と浮遊塵の測定値の対比では、同じ環境・時間で測定しているにも拘らずその結果に大きな差がありました。今回はこの差の原因について考察してみます。
まず50μm以上の粗大な異物についてはAPCの観測エリア上に約150個が検出されています。一方、浮遊塵としては同じ測定時間(3.5H)中に3個/CFが2回検出されましたが、この2つの数値は測定原理も単位も違いますので単純な比較はできませんので、もう少し整理が必要です。
APCの観測エリアは約620平方センチで、これはA4コピー用紙とほぼ同じ面積です。比較を容易にするため平方メートルに換算すると1/16㎡となりますので1平方メートル当たり150×16=2,400個の異物(50μm以上)が観測された事になります。とんでもない数ですね・・・
一方、浮遊塵の測定は空気中の異物を吸引することで行われ、その結果はCF(Cubic Feet = 約0.3立方メートル)当たりの異物量として換算されます。
仮に3個/CFの浮遊塵が2回観測されたのち重力で落下し、その全てが0.3×0.3㎡の底面に付着したとすると6個/0.09㎡≒67個/㎡の付着塵となるはずですが、同じ面積での比較でも依然として2,400個 VS 67個の違いとなってしまいます。この差は一体何に起因するものでしょう?
一つの仮説として以下のようなモデルを考えてみます。
一定の空間内に素材が置かれ、様々な大きさの異物が浮遊しています。この浮遊塵は重力によって落下するので、一定時間後には浮遊塵のある部分は素材上の付着塵となります。
この浮遊塵の落下速度(終末速度)は異物のサイズや密度・形状によって異なりますが、ここで以前のこのシリーズでも解説したストークスの方程式が再登場します。
この近似式の右辺第1項にDp(浮遊塵径)があり、これが2乗で効いている事が示すように、異物の大きさは落下速度に大きく影響します。球形で密度が同じ直径5μmと50μmの異物を比較すると最終的な落下速度(終末速度)は計算上50μmの異物の方が100倍速く、20μmと50μmで比較した場合でも6.25倍の差があるという事になります。
この事を先ほどのモデル上で考えてみましょう。
この例では空間内に20μmと50μmの異物が浮遊しているものとします。一見して判るように通り浮遊塵としては20μmの異物の方が多いのですが、一定時間経過して異物が自由落下した場合どちらのサイズの異物の方がどれだけ素材上に付着するのでしょうか。
両者が同じスピードで落下するなら、基本的には浮遊塵としての濃度によって付着数が決まるはずです。しかし実際には先の終末速度の違いがありますので、予想される付着数はそれぞれ点線で囲まれた部分の異物という事になり、このモデルケースでは20μmが3個に対して50μmが5個という事になります。
もちろんこのケースは説明がしやすいように単純化していますし、一般的には20μmの浮遊塵数は遥かに多いため50μmの付着塵の方が多くなるという事はありません。ただ、粗大な異物になればなるほど「浮遊塵として観測される数が少なくても、実際に製品に付着して不良を引き起こすリスクが高くなる」というのが事実だと思います。
冒頭の2,400個 VS 67個は約36倍の差になっており、この差の中身には今回考察した終末速度の他に検出力自体の違いが含まれていると考えていますが、いずれにしても今後求められるクリーン度の見える化・定量化には浮遊塵と付着塵の両方の視点が必要なのは確かでしょう。