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クリーン規格と粗大粒子

前回まで異物の2つの形態である浮遊塵と付着塵の関係性などについて考えてきましたが、今回は一度立ち返って浮遊塵、中でも数十μmを超えるような粗大な浮遊異物の基準について考察してみたいと思います。

 

クリーンルームの性能評価や管理に使われる「クリーン規格」には様々なものがあります。例えば昔からクラス100やクラス1000などという表現で使われてきたFED規格(抜粋)は以下のようなものです。

現在ではこのFED規格は廃止され、正式にはISO規格等へと移行していますが昔からの馴染みがあり、白状すると私は未だにISOクラス6と言うより、クラス1000という表現の方が肌感覚として捉えやすいのが正直なところです。

それはさておき現行のISO14644-1(抜粋)は次のようなものです。

このように、例えば半導体工場で問題となるような数μm以下の微細な浮遊塵についてはしっかりとした規格がある訳ですが、今回のテーマである数十μmを超えるような粗大な異物の基準は定められていません。

 

塗装工程などの多くの製造工程では、(もちろん少ないに越した事はありませんが、)10μm以下の微細な異物は直接的な問題にはならず、確実に管理が必要なのはこうした数十μmを超えるような粗大異物であることがあります。それではこうした粗大異物は具体的にはどの程度が許容範囲で、どこからがNGなのでしょうか。

 

この点について今のところ明確な規格がないのは3つの理由があるように思います。一つにはこのような粗大な異物を計測する方法が一般的ではなかった事、二つ目は前回のこのコーナーにも登場した「終末速度」の関係で粗大な異物が落下せずに浮遊を続けるためには相当の風速が必要で、このような環境がクリーンルーム内にある事が現実的ではなかった事、最後の三つ目は、仮にもクリーンルームにそんな大きな異物があるばず無いだろう、という事で無視されてきたのではないかと想像しています。

 

しかし残念ながら現実問題としてHEPAフィルターを備えた塗装ブース内にも100μmを超える粗大な異物が存在します。そしてこのような粗大な異物が大問題である事は明白で、私たちはこれを無視する事はできません。そこで若干の無理筋は承知で、ある程度合理性がある基準を探ってみましょう。

冒頭のFEDやISOの規格は中身には若干違いがあっても共通しているのは”小さな浮遊塵ほど多く、大きなものは少ない”という原則です。実際にISO規格(クラス6)をプロットしてみると次のようなグラフになります。

”小さな浮遊塵ほど多く、大きなものは少ない”という原則は多くの測定値から導かれた結果だと思いますし、グラフからもそれを読み取る事は出来ますが、このままの状態では関係の法則性が掴みにくいので、今度はXY軸を対数軸にしてプロットしてみます。

このようにしてみると、異物のサイズと個数の関係が直線状に並ぶ事がはっきりしてきます。(不思議ですね!)

次にこのプロットによって得られた直線を大きな粒径側に延長して、20μmと50μmとの交点を求めます。

最後に20μmと50μmのLog異物個数を逆変換すると、それぞれ0.5個/㎥と0.1個/㎥という概算値が得られます。

私はお客様の工程診断の中でこのようにして求めた浮遊粗大粒子の基準を利用していますが、他の異物サイズの測定値とのバランスや、到達の難易度などから見て、お手軽に求めた基準の割には合理的な判定が得られるように思います。

 

一連の算出作業はいわゆるデータの”外挿”ですので、結果はあくまで参考値として捉えるべきものです。しかしながらせっかく測定値があるのに、それをもとに何らかの判断とアクションを行うことが出来ないのはもったいないですし、何よりもこうした粗大粒子によって多くの問題が発生している以上、暫定ではあれ何らかの判断基準は必要だと考えています。

 

さて、ここまで書いてきて言うのも何ですが、今回の本題は実は別のところにあります。私は長年異物不良と戦ってきた中で大きな疑問がありました。

と言うのも先ほどクリーン度の原則として次の法則が出てきた、

 

    ”小さな浮遊塵ほど多く、大きなものは少ない”

 

という法則は様々な経験則やデータから導き出された物ですので正しさはある程度保証されているとして、これを逆にした次の仮説は正しいのでしょうか?

 

    ”小さな浮遊塵が少なければ、大きなものも少ない”

 

何となく正しいような気がしませんか?

実際にこの仮説に基づいた管理は多くの工場で行われています。

一例をあげると、塗装ブースでパーティクルカウンターを使ってクリーン度を管理する場合、一般的なパーティクルカウンターの測定粒径である0.5μmや5μmを測定して合否を判断している場合があります。まあ仮に0.5μmが1000個/㎥以下だとすれば相当にお金をかけた設備である事は分かります。

でも本当に0.5μmや5μmが少なければ50μmや100μmの浮遊塵も少ないと見なして良いのでしょうか? 

 

前置きが長くなりましたが、私が本当に知りたいのはこの点で、前掲の基準云々はそれを考える過程での産物でした。

次回からこの問題を掘り下げたいと思います。