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粗大異物発生装置

前回まで粗大異物の性質について考察してみましたが、実際にこれを測定して検証する際にはちょっと困った事が発生します。と言うのも、例えば摩擦によって発生する異物のサイズや数を測定しようとする場合、ノイズを減らすために出来るだけクリーンな空間で測定する必要がありますので、もちろん誰かがその空間の中に入って作業するという訳にはいきません。この場合私を含めて人間は最大の異物発生源(=ノイズ)になります。

この測定のためにワイヤレスで異物を発生させる装置を制作しましたので、今回は少し話題を変えてこのお話をしたいと思います。

 

このHPでも以前何度か取り上げていますが、少し前からIoT(Internet of Things)というキーワードが取り上げられる事が多くなっています。これを直訳して”モノのインターネット”と呼ばれる事も多いのですが、この概念自体まだ発展途上で、若干掴みどころがないと同時にまだまだ伸び代が大きい領域です。

 

IoTはもちろんインターネットを含めた大きなシステムの一部ですが、ユーザーである私たちにとって特に重要なのは処理装置とセンサーの発達だと思います。処理装置はワンボードマイコンとも呼ばれますが、様々なセンサーや周辺装置を載せて外部とのデータのやり取りをする要となるデバイスで、その名の通り小さなコンピュータですが、これが普通のパソコンと異なるのはその多くが片手に収まるコンパクトなサイズであるというだけなく、実際に”物理的な動作”をする事を得意としている点にあります。

 

私たちが日常使っているパソコンは進化を続け非常に高性能なものですが、例えば手元にあるLEDを1個点滅させようと思うと意外に大変な事に気付かされます。現実的には追加機器なしにパソコンで直接LEDを安全に点灯させる事は難しいでしょう。同様にモーターを動かしたり、電灯を点灯させたり、センサーの生信号を処理したりといった”物理的な”動作をさせることはとても困難です。ワンボードマイコンはこうした処理が簡単に出来ることから、フィジカル・コンピューティングとも呼ばれますが、これを使う事でモノ作りの自由度が大幅に増します。

 

こうしたワンボードマイコンは代表的なArduino/mbed/Raspberry Piなどの他にもたくさんの種類があり性能的にも大きな違いがありますが、私がこれまで最も多く使う機会が多かったのはArduino Nanoシリーズのマイコンボードです。

Arduino Nanoは正規品でも¥3,000以下で入手できますが、ハードウェア自体がオープンソースになっているため、ジェネリック品であれば¥500以下のものも見つかります。2005年にイタリアでArduinoプロジェクトが発足してから15年が経過しており性能は控えめですが、これまで多数の製品に採用された事によるソフトウェアの蓄積があり、電池駆動も簡単なことから現在でも最も使いやすいマイコンの一つだと思います。

 

今回制作するワイヤレスの異物発生装置はWiFiを利用する関係で、ESP32というマイコンを採用しました。このマイコンはWiFi機能を標準装備している事に加えArduinoの開発環境をそのまま利用でき、処理性能もArduinoの数10〜100倍でありながら価格は¥1,000以下という高コスパのマイコンボードです。プロセッサ自体の性能だけ言えばWindowsXP発売当時のパソコンに迫る処理装置をこれだけ気軽に利用できる事は驚異的ですね。

今回制作した装置の全体像です。ESP32を中心に電源部、サーボモーター部などから成ります。これでスマホのボタン一つで地球の裏側からでも異物を発生させる事ができます。(実際には隣の部屋から操作しますが)

ESP32がWiFi経由で信号を受信するとサーボモーターが起動します。アームの先端にはABS樹脂棒が取り付けられており、サンドペーパー(#320)との摩擦によって粉塵が発生します。

発生した粉塵は下のプレート上に落下し、サイズと数量が測定されます。

もちろん測定する室内では空気清浄機を稼働し、十分に浮遊塵が減少してから実験を開始します。

 

さて、この研磨によって発生する粉塵の粒径分布はどのようになるのでしょうか。当初の仮説としては次の2つがありました。

 

①一般的な浮遊塵の粒径分布と同様、小さい異物ほど多い分布となる。

②特定の粒径にピークを持つ(正規分布に近い)分布となる。

 

どちらもありそうな気がしませんか?

 

もしも①ならばこうした異物発生の監視に1μmや数μmといった浮遊塵を測定すればイベントの検出ができる可能性が出てきます。②ならばそうはいかないという結論になるでしょう。

 

さあ、ここでようやく元々のテーマである「浮遊塵」と「付着塵」の関係に戻ってきました。

 

次回はこの実験の結果をまとめます。