少し極端な話になりますが、ゴミやホコリなどの異物が空中に漂っているだけならば、多くの場合品質上の問題にはなりません。しかしこれが物体の表面にくっつく、いわゆる「付着」した場合に初めて何らかの品質問題となります。
もちろん実際には異物というやっかいな連中は、空中に漂っているだけで満足するはずもなく、一定の割合で製品表面などに付着して問題を起こす事になる訳ですので、私たちはこの「付着」という現象を詳しく知っておく必要があります。普段何気なく使うことも多い「付着」とはどういうメカニズムなのでしょうか?
今回はこの点について少し突っ込んで考えてみたいと思います。
まず当初別々の場所にある異物が製品などの物体の付近まで移動し、その表面に接触するためには何らかの力が必要です。たとえ10μm以下の小さな異物であっても質量を持ちますので、その移動にはそれ相応のエネルギーが必要です。
この異物を動かす力のうち、まずイメージしやすいのは「気流」でしょうか。空気中に漂う異物は気流によって移動しており、「犬も歩けば棒に当たる」式に、そのうちある一定の割合は物体の表面に到達する事になります。
また床などに一度落下・付着した異物でも、以前お話した「終末速度」以上の気流がある場合には再度浮遊し、移動を再開する事になります。ここでいう気流は例えば送風機などによって意図的に起こされるものの他に、熱による対流や、私たちの歩行や動作によっても常に発生しています。
次に異物を移動する力として働く可能性があるのは「静電気力」です。静電気力はクーロン力とも呼ばれますが、二つの物体の電荷によって働く力です。静電気力は電荷が多い場所、例えば摩擦によって帯電した樹脂板に髪の毛やホコリなどが引き寄せられる事などからイメージができるかもしれません。
静電気力は”距離の2乗に反比例する”という性質がありますので、この力が及ぶ範囲というのは比較的狭い範囲となり、遠く離れた場合の影響が小さいというのが特徴の一つです。逆に距離が近い場合、例えば異物が物体表面に付着した状態では極めて強い力を発揮します。帯電した異物がエアーブロー程度ではなかなか剥がれないのはこのためです。
異物を移動させる代表的な力の3つ目は「重力」です。重力は普段あまり意識されることはありませんが常に私たちの身の周りに働いています。微小な異物に働く重力は極めて小さいものではありますが、先の静電気力とは違って物体間の距離によって大きく変化する事はありません。製品表面の1cm上を漂う異物も、10m上の異物も重力の影響を受けて製品表面を目がけて落下してきます。異物の付着メカニズムにとって決して侮れない力です。
異物を物理的に移動させるエネルギーという点では、他にも例えば異物が私たちの衣服に付着して移動する可能性や、誰かが意図的にゴミをつまんで製品上にふりかけるといった可能性も否定できませんが、ここでは無視して先の3つ、「気流」「静電気力」「重力」が異物を移動させ物体と接触させる力とします。
さて、これらの力によって不幸にも製品表面に接触してしまった異物ですが、これだけなら(静電気力を除けば)単に表面に接触している状態です。接触しているだけならば、例えば息を軽く吹きかけたり、製品をトントンと揺すっただけでポロリと落ちても良さそうなものです。
でも実際には一度こうして製品表面に接触した異物は、ちょっとやそっとでは離れない「付着」という言葉のイメージ通りの面倒な状態に到る事を多くの方が経験されていると思います。こうした状態を説明するためにはまた別のメカニズムが必要です。
次回に続けます。