この数年の間にモノ作りの現場で大きな変化が起きているように感じています。それはこれまで高額な装置やソフトウェアが必要で、小さな企業や個人でははなから検討対象にすらならなかったような手法が身近になってきた事です。
これによりこれまでアイデアを実際のカタチにする過程で、専門メーカーや技術者に頼らざるを得なかった部分を、アイデアを思いついた人が「自ら」、「すぐに」、「安価に」実現できるようになりました。
こうしたいわばDIY 2.0とでもいうべき変化によって、改善活動や製品開発の自由度やスピードが大きく変化しています。
その背景にはいくつかの要素がありますが、特に私が重要だと考えるポイントを数回に分けてお話ししてみたいと思います。
今回は「3Dプリンター」がテーマです。
3Dプリンターが一般的にに知られるようになって既に10年以上経っています。皆さんのなかにも仕事などで利用した経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
私も仕事柄3Dプリンターを自宅に設置してから5年程経過していますが、その間見える化を実現するための多くのアイデアの実現、及びプライベートの用途でこの装置がどれだけ活躍してきたのかわかりません。
私自身も実際に自分で使うまでは3Dプリンターというのは射出成型機などの既存の樹脂加工方法の劣化コピー版程度の認識でしたが、何度か使ううちにそれらとは全く違う利点があることがわかりました。
まず形状的な自由度が大きく違います。
私が使っているのは熱溶解積層型という最も普及しているタイプの3Dプリンターで、これは物体の形状を輪切りにように分割して、溶融した樹脂を徐々に積み上げていく方式です。最初はこうした方式上、穴があったり中空の形状は難しいのだろうと考えていましたが、溶融樹脂の粘度のおかげでこうした形状でもある程度はそのまま造形できてしまいます。
さらに完全な中空構造の場合には「サポート」とよばれる構造を追加する場合もあります。これはいわば仮設の工事用足場のようなもので、最終的には除去されるものですが、重要なのはこのサポートは形状に応じてボタン一つで自動的に追加されるため、追加の手間はほとんど発生しない事です。
射出成形などで注意が必要になるアンダーカットや抜き勾配の検討などもほとんどの場合必要ありません。他の加工方法では間違いなく「こんな形状をどうやって作るんだよ!」と怒られるような形状でもそのまま加工できてしまうのは、使い勝手が良いのを通り越して笑ってしまう事すらあります。
例えばこの写真は最近3Dプリンターで作成したスマートフォン用のスタンドです。
仕事でスマートフォンを立てておきたい場面があり、その反面荷物も増やしたくないため折り畳み式のものを探していたのですが、意外にちょうど良いものがありませんでした。
理想を言えば100円ショップなどで見つかれば一番手間も掛からず安上がりなのですが、無い物は自分で作るしかないという事で作成したというのが経緯です。
2つのパーツをヒンジの部分を軸にして折り畳めるようになっていますが、実はこれ一体で造形しているのです。
と言われてもピンとこない方も多いと思います。
私もなぜこんな造形ができるのかハッキリと説明できる自信がありませんが、組み合わせた2つの部品を必要な隙間を保ったまま同時に成形する事ができるのです。このためこのスタンドの分解は不可で、2つの部品を取り外すには破壊するしかありません。(そもそも分解する予定はありませんが)
3Dプリンターの造形では他にもチェーンのような形状を一体で整形する例がありますが、いずれにしても他の加工方法ではまず不可能な造形をいとも簡単に実現できてしまう点で、重要な意味を持ちます。
頭に浮かんだアイデアをより制約が少ない形で造形し、直ちに手に取って検証し、またそれを元に改善を加えて検証するというサイクルを体験してしまうと、もうそれがない時代には戻れません。
最終的には金属などで作りたいパーツでも、単に図面上で検討するよりも実際の造形として手に取るのではやはり得られる情報量が違います。図面検討だけでは図面が読める人の意見しか反映されにくいという問題もあります。
こうした進め方は「プロトタイピング」とも呼ばれますが、トライ&エラーのサイクルをスピーディーに何度か回してから最終的な素材や加工法で加工を行なった方が、結局はより良い物が・早く・安くできる可能性が高いでしょう。
まさに「案ずるよりプリントするが易し」なのです。
このようなメリットや、3Dプリンター自体も安価になり10万円を切る機種も多くなっていることから、まだ使用した事がない方にも是非お薦めしたいと思うのですが、最初に使用する際にはもう一つハードルがあります。
それは3Dプリンターに加工させる形状データを作成するために欠かせない3D-CADの操作なのですがこの点も大丈夫。以前は数十〜数百万円していたような高性能なCADソフトが安価(あるいは無料)で用意されており、パソコンも現在の一般的な性能のものならば十分に実用できます。
またCADソフトの操作も以前と比べて格段に簡単かつ直感的に扱えるようになっています。
次回はこの辺りのお話をしてみようと思います。