前回紹介させて頂いた3Dプリンターを使うためには、形状を記述したプリントデータを用意する必要がありますので、一般的には3D-CAD(3次元CAD)を利用する事になります。
昔のCADというのは有料が当たり前で、価格も10万円台は普通、多機能なシステムでは100万円超も当たり前の世界でしたので、個人でこれを導入するには一大決心が要るものでした。
しかも当時のパソコンの処理能力があまり高くなかった事もあり、少し複雑な形状になると目立って処理が遅くなり、その操作に忍耐を要求される場面も多いものでした。
その時代から考えれば今は夢のような状況で、高性能な3D-CADを無料で使い、自分の好きな形状を即座にプリントする事ができるのです。これを使わない手はありません。
現在3D-CADにもいろいろなものがありますが、まず私が長い間3Dプリンターのデータ作成用に使用してきたのは「Blender 」というソフトウェアです。
ソフトの種類からするとBlenderは3D-CADというよりは、本来アニメーション制作で使われるようなCGを作成するためのソフトウェアで、最近も有名なアニメ制作会社が採用を発表しています。
そのような訳で、これを3D-CADとして使うのは広大な庭の片隅で遊ばせて貰っている感がないでもないのですが、実は3Dプリンターのデータ作成も問題なくこなす事ができるのです。
Blenderは元来がCGなどのアート系の用途だったからかどうかは分かりませんが、今でも操作画面の美しさは随一だと思います。ソフト自体も比較的軽く、さほど処理能力が高くないパソコンでも扱う事ができる点も優れています。
そして何よりもオープンソースのソフトウェアのため、基本的に無償で使う事ができるのが利点です。私もいくつかの3D-CADを使用してきましたが、結局はBlenderに戻るという事を繰り返し、結果的に長い間これをメインとして使用してきました。まず3D-CADがどういう物か知りたいという方にもお薦めできます。
このように基本的にBlenderの機能には不満はなかったのですが、他のいくつかの事情があり、最近私がメインで使用する事が多くなっているのは「Fusion360」です。
これはCAD業界で有名なAutodesk社のソフトで、単にCADに留まらない多彩な機能が1パッケージに統合されています。若干条件はありますが現在のところ個人使用の場合は基本的に無料で使用可能なこともあり、同社のAutoCADのようにこれからの3D-CADのスタンダードの一つになる可能性が高いのではないかと思われます。
メジャーなソフトだけあって使用方法習得のための各種書籍が出版されていますが、私のお薦めは公式ページのチュートリアルです。
このページを覗いてもらうとFusion360の機能の概要が分かると思いますが、このチュートリアルを一通りこなす事で、基本的なCAD操作手法や造形のレンダリング、アニメーション、強度シミュレーション、振動解析などの多彩な機能の使用方法を(これも無料で)習得することができます。
それにしてもこのソフトの高機能さは驚異的です。3Dプリンター用のデータ出力だけでなく、CNC加工用のGコードも生成できますので加工方法の選択肢が広いのも魅力です。個人的には3D-CADから2D図面を作成する機能が秀逸で、おかげでこれまで使ってきた2D-CADが第一線を退くことになりました。
これだけの高性能なソフトを無料で使い始められるのはAutodesk社の戦略的な方針なのでしょうから、将来的には有償化される可能性はあると思います。またアカウントの設定など多少手間も掛かりますので、Blenderなどのオープンソース系に比べると若干敷居は高いのですが、これから本格的に3D-CADを使った3Dプリントなどに取り組みたいという方にはお薦めできます。
以上、2回に渡って3Dプリンターを利用したプロトタイピングの概要を紹介させて頂きました。興味をお持ちの方は一度お試しを。
恐らく思いのほか簡単に使える事に驚くと共に、その便利さは一度経験したら手放せなくなる思います。