今回は3Dプリンター応用の実例として、少し前に作成した「超音波レンズ」を紹介しようと思います。
超音波の持つ高い指向性を利用した、パラメトリックスピーカーと呼ばれる装置があります。これはある限られた範囲にピンポイントで音声を伝達できるという面白い装置で、超音波発振器が多数平面上に配置されています。
超音波はそのままでは人間の耳で聞き取る事はできないので、音声を伝達するためには変調と呼ばれる処理が必要になりますが、同じ原理を利用した装置の強力なものにはLRADなどと呼ばれる一種の音響兵器として実用化されている例もあります。(写真の6角形の装置)
このようにパラメトリックスピーカーというのは基本的に平面上に超音波発振器を配置するのですが、業務上のちょっとした必要性から多数の超音波発振器をレンズのように一点に向かって焦点を結ぶように配置したらどうなるかを調べたくなりました。
一点に向かって焦点を結ばせるとなると、例えば調理用ボールのような球面の内側に方向を精密に揃えて発振器を配置する必要があります。また音圧を高くするために発振器同士の隙間を最小限にしてギッシリと詰め込む必要があります。このような形状のものを作るのに3Dプリンターを使用しました。
まず3D-CADで半球状のシェルを作り、その中に発振器を配置していきます。
今回は約50個の発振器(緑色)を使用していますので若干複雑ですが、それぞれの発振器の位置や角度を調整しながら、焦点を合わせていきます。
真横から見ても軸線(緑色の細長い線)が一点に収束していることを確認してCADデータを出力します。
次に3D-CADデータを3Dプリンターの前処理ソフトに渡し、プリント用のデータを作成します。今回は丁度ドームのような形で造形しますので、天井部分を支える”サポート”と呼ばれる足場が必要です。
ドームの中に見える緑色の部分がサポートです。木の枝が絡まり合ったような複雑な形状ですが、実際にはボタン一つで自動的に生成されたものです。この生成アルゴリズムはかなり高度な仕事をしてくれているように思いますが、これも3Dプリンターに標準で付属している機能です。
あとは3Dプリンターにデータを送り、時折進捗を確認しながら待つだけです。この例では若干形状が複雑なため約5時間かかりました。
造形が完成しました。
サポート等の不要部分はニッパーなどで取り除きます。超音波発振器を取り付ける穴は精度が必要なため若干小さめに造形していますので、ドリルで正規の寸法に合わせています。
発振器を全て取り付けて配線が完了すると、なかなか不思議な形になって来ました。
裏から見ると全ての超音波発振器がレンズのように一点を指向しているのがわかります。
このような形状の物体を他の手段で作ろうとした場合、理論的には射出成形やCNC加工なども考えられますが、とても気軽に作れるようなコストには収まらないでしょう。自由なアイデアを手軽に形にするという点で、3Dプリンターが強力な武器になるのはご理解いただけると思います。
さあ、これを使ってどんなことが出来るのでしょう(ここからが本題ですね)。次回に続けます。