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超音波レンズ 2

 

 

 

前回制作過程をご紹介した「超音波レンズ」は、超音波発振器の方向が一点に集まるように設計されていましたが、もう一つ重要な特徴は全ての超音波の「位相」が揃っているという事です。

 

ご存知のように超音波も含めた全ての音波は、読んで字の如く「波」の性質を持っています。この波というのは水面に発生する表面波の場合もそうですが、二つの波がぶつかった時にその位相(タイミング)によって増幅したり打ち消し合ったりする性質があります。

最近多くのヘッドフォンに採用されて身近になっている「ノイズキャンセリング」は逆位相の音波を利用してノイズを打ち消していますが、「超音波レンズ」では約50個の超音波発振器の方向を一点に合わせ、超音波の位相も揃える事で音のエネルギーが結集し増幅されます。そうするとこの焦点の位置ではどのような事が起こるのでしょうか?

 

次の動画はこの焦点を水面を向けた場合の事例です。

焦点の位置が合うと、水面が激しく波立ち細かい気泡が発生するのが観察できると思います。見方によってはコンプレッサーエアによるブローをしているように見えるかもしれませんが、もちろんエアは一切使っていません。

 

水面のかわりに米粒のような粒子を焦点の位置に持ってくると細かく踊り出しますので、対象が比較的大きな固体でも物理的に動かすパワーが有る事も分かります。試しに指を当てると指先を押されているような不思議な感覚がありますが、AR(仮想現実)技術の一つにこれと似た装置で仮想触覚を作り出すという分野もあるようですので、こちらも何らかの形で実用化される日が来るかもしれません。

 

それはさておき、実はこの実験は以前このコーナーで書いた「ファンデルワールス力」と関係があり、ここでのポイントは「非接触」で物体を動かせるという点です。

 

ファンデルワールス力などによってワーク表面に付着した異物は簡単には除去できなくなるのは以前説明した通りです。一度こうした力によって付着した異物は軽く風を吹き付けたくらいでは離れませんし、掃除機のような吸引型の装置でも気流のみで吸い取ることは困難です。多くの掃除機にブラシがついているのもこのように付着した異物をブラシによって物理的に剥がした後で吸い取る必要があるためです。

 

製造現場でも(液体による洗浄を除けば)一般的にはこうして付着した異物の除去には高圧エアブローやブラシ掛け、場合によってはオーストリッチの羽根などによるワイピングなどが行われます。こうした方法は確かに例えば100個異物が付着したワーク表面の異物量を例えば10個にするには有効で、だからこそ現在も様々な工程で採用されています。

 

しかしよくよく調べていくとこうした手法では許容される異物の残存量が10個→5個→2個→1個→0個、とクリーン度のターゲットが高くなるほど、除塵作業による副作用が強く出てくるのが明らかになってきます。

 

例えばブラシ掛けではブラシ自体のクリーン度が制約条件になってきます。最初に大量な異物が付着している場合は「毒をもって毒を制す」的な効果を狙って副作用には目をつぶる事ができますが、たった1個付着した異物を除去するためにブラシを掛けた場合、逆にブラシから10個の異物が付着するとするとこれは悲劇以外の何物でもありません。

 

エアブローにしてもある領域までは確かにエアの圧力と流量を大きくするほど、付着した異物が除去できる可能性が高くなります。しかしある点を境に除去できる量と、逆に吹き散らかしたエアによって誘発された浮遊異物が付着する量が逆転するというポイントがあります。こうなると何のために高い電気代を払って空気を圧縮し、手間ひまをかけて大量に吹き付けているのかわかりません。

 

様々な製造現場での経験や実験を通してこうした現実を目の当たりにすると、言い方はちょっと変ですが「もっとクリーンなクリーン化手法」が必要なのだと考えるようになりました。今回の超音波レンズもこうした流れの中で行った実験ですが、これも非接触でコンプレッサーエアを使う事なく、表面に付着した異物を確実に除去するための手法の一つになり得ます。

 

異物の見える化を突き詰めていくと、当然の流れとしてその異物を何とかして除去したいという願望が強くなります。また異物の除去性能も漠然とした形ではなく定量的に判断できるようになってきます。今回ご紹介した実験もこうした取り組みの一端ですが、今後もこのコーナーでは機会を見つけてこうした「除塵」テーマを取り上げていきたいと思います。