· 

付着塵と風速①

以前からこのコーナーでも取り上げている「付着塵」は空気中を浮遊するゴミやホコリのうち、比較的短時間のうちに落下して製品表面などに付着する性質が強く、製品の外観品質に大きな影響を与える可能性が高い概ね20μmを超えるサイズの異物の事です。(詳しくはこのコーナーのバックナンバーなどもご覧ください)

 

こうした付着塵は浮遊塵(長時間浮遊する数μm以下の異物)とは性質が異なります。このためクリーンルーム並の給排気装置を装備し、パーティクルカウンターなどの浮遊塵測定では良好な結果が出ているにもかかわらず、どうゆう訳か数10〜数100μmの粗大な異物による品質不良が発生するといったような状況が発生することがあります。今回の本題に入る前にこの点を少し説明します。

 

これまでクリーン度を評価する方法として一般的だったのはパーティクルカウンターをはじめとした浮遊塵の測定です。もちろんこれは大切な管理手法なのですが、残念ながら通常測定できるのは5μm程度の異物まで、吸引量の大きな装置でも50μm程度までの浮遊塵です。

 

ここで疑問になるのは製品の外観品質が問題になる工程では100μm以上の異物が問題となっているケースも多いのに5μm程度の浮遊塵の測定でクリーン度の十分な評価ができるのかという点です。こうしたサイズの異物による不具合対策に苦労している方の多くが感じた事のある疑問ではないでしょうか。

 

これまで私も多くの場面でこの疑問に直面して来ました。立派な吸排気装置を持ち、時にはHEPAフィルターまで備えた工程内で100μmの異物による不良が多く発生するケースは本当に多いのです。パーティクルカウンターで測定すればISO CLASS 6前後の結果となる環境の一体どこに100μmの(またはそれを超えるようなサイズの)異物が存在するというのでしょう?

 

この推論の根拠になっているのは「サイズが大きくなるほど浮遊塵は少なくなる」という一般的法則です。これはクリーンルームの管理などに用いられて来たクリーン規格を見ればよく分かります。

 

代表的なクリーン規格であるISO14644-1では0.1μmから5μmまでのパーティクル数が規定されています。同じCLASS(行)を見るとサイズの大きなパーティクルほど数が少なくなっているのが分かりますが、この傾向をもう少し見やすくするように両対数軸のグラフにしてみましょう。縦軸に上限濃度、横軸が異物サイズ(粒径)をとっています。

こうして対数軸にプロットしてみるとこの規格の全体像がよく分かります。この規格は数多くの測定結果から導き出されたものだと思いますが、自然界に漂う浮遊塵のサイズと量の関係が、対数軸上で一直線に近い関係になる事を示しています。(とても不思議で美しい関係ですね!)

 

実際にパーティクルカウンターを使用して様々な環境を測定すると多くの場合で、このクリーン規格に近い傾斜になることが多い事から見ても、これは浮遊塵レベルを規定するための重要な規格であることは間違いありません。

 

問題はこの規格に含まれないサイズの大きな異物(付着塵)についても、パーティクルカウンターの測定値が十分に少なければ、「それより大きな異物はまあ大丈夫だろう」と見なして良いのかという点です。

 

先ほどの対数グラフを右側に拡張してみましょう。例えば緑色のCLASS 6の線を延長すると100μmの粒径では1個/㎥以下の位置にプロットできます。これを素直に解釈すればCLASS 6の環境では100μmの粒子は殆ど存在しないと考え、異物不良の原因をその他の要因に求める事になります。

 

でも本当にこれで良いのでしょうか?

 浮遊塵が少なければ環境に問題がないとみなして大丈夫なのでしょうか?

 

もちろんこれは「外挿」と呼ばれるデータ解析上の禁じ手ですが、パーティクルカウンター以外にクリーン度を評価する方法がなければ止むを得ない事だと思います。私も長い間こうした考え方をせざるを得ませんでした。

 

しかし付着塵カウンターを使用して大きな異物の挙動を定量的に捉えられるようになると、この考え方の問題点も良く見えてきます。

次回から何回かにわたって付着塵カウンターを用いた異物の性質についての実験結果を数回に分けて紹介する予定です。

最初は付着塵と風速の関係からです。