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付着塵と風速③

 

前回から続けます。

この実験で得られた付着塵量の測定例は以下のグラフのようになります。横軸は時間(約4時間スパン)で、縦軸がサイズ毎の異物カウント数です。1時間毎に入室してサーキュレーターの風速を変化させていますので、そのタイミングでグラフの傾斜が変化しているのが確認できると思います。

 

ちなみに同時に測定している浮遊塵測定の結果は下図のようになります。同様の測定を行った経験のある方なら見慣れたグラフではないでしょうか。5μmの測定値(左軸)は平均100個/cf以下で、空気清浄を行っていない室内としてはまずまず悪くない環境と言っていいかもしれません。20μmと50μmの測定値(右軸)は更に少ない測定値となっています。特に50μmの浮遊塵については4時間の間に計測されたのは3個/CFが2回だけです。

 

 

付着塵測定は異物の積算値であるのに対して浮遊塵測定値は瞬間値を計測しているため、一見全く違ったグラフになっていますが、”20μm 以上の付着塵”と”5μmの浮遊塵"に着目すると測定値が増加するタイミングに相関があることが見て取れます。

 

実際に浮遊塵の測定結果を積分してみると付着塵の測定結果と同じような階段状のグラフが得られます。この事から「少なくとも浮遊する性質が強い20μm程度までの付着塵は」浮遊塵測定値とある程度の相関を持つ事がわかります。しかし今回の実験の趣旨はそれより大きな付着異物を含めた挙動の確認です。

 

そして次のグラフが今回の付着塵実験結果の全体像です。前回説明したようにこのグラフはPDCクラスと対比するために1平方メートル・1時間当たりの付着数に換算し、両対数軸となっています。またそれぞれのプロットは4時間 の実験を6回繰り返した平均値です。

 

 

いかがでしょうか。

このグラフからまず分かるのはサーキュレーターの風量によってプロットの傾斜が異なる事です。これは異物サイズが大きくなるほど浮遊・付着するために大きな風速を必要とするためだと考えられますが、以前このコーナーでも説明した”終末速度"から考えても妥当な結果でしょう。

 

これに対して20μm以上の異物数に目を向けて見ると、各風量での差異はかなり小さくなっています。この程度のサイズの異物の場合には通常室内に存在する気流でも終末速度を上回るため、長い時間浮遊を続けるという事でしょう。言い換えればこのサイズならば浮遊塵測定値から付着量の見当をつける事が出来るという事でもあります。

 

一方グラフの傾斜が異なるという事は、(50μmを超えるような)大きな付着塵量は浮遊塵の測定値から判断する事は難しく、同時にこの傾向は異物サイズが大きくなるほど強くなるという事です。付着塵はもちろんその”場”に存在する異物量が主因ですが、気流や歩行・移動などプラスアルファの”誘因”によってその挙動に影響を受けるため、プロットの傾斜はクリーン度だけでは定まらず、気流(誘因)によって上図のように変化するのです。

 

以上、今回の実験の結論を一言でまとめると「浮遊塵量が少ない事が必ずしも大きなサイズの付着塵量が少ないという事を保証するものではない」という事になります。

 

こうした考え方は付着塵の定量測定装置自体がまだ普及していないこともあり、まだまだ一般的ではありません。私も長年の疑問であったこの点について検証を始めるに当たっての最大のハードルは、そもそも付着塵量の時間推移を自動的に測定する手段が無いという事でした。

 

この実験で「自動測定」が重要だったのは、最初のグラフが階段状になっている事からも分かるように、付着塵の最大の要因の一つは人間の動作だからです。人間がいちいち異物カウントに介在するとなると、それがカウント作業によるものか、環境要因によって自然に落下したものか区別が付かなくなってしまいます。

 

このため私の場合は測定方法の開発から取り組む事になり、この結論に到るまで約4年の年月を要しましたが、現在は付着塵測定装置を発売するメーカーも徐々に増えつつあります。単に付着塵量をカウントするだけならばいくつかの選択肢もあります。

 

もし皆様の現場で現在問題となっているのが数ミクロン以下やサブミクロンオーダーの微小異物ならば、オーソドックスな浮遊塵対策を更に深堀りする事が有効かもしれません。しかし10〜100μmオーダーの異物による不具合が現実に発生していて、しかもそれが浮遊塵のコントロールがある程度効いている環境内での事ならば、付着塵を見える化してそれに見合った対策を進める事が必須です。

 

尚、以前にもこのHPのどこかで申し上げたと思いますが、浮遊塵量が必ずしも付着塵の現実を表わしているとは限らないからと言って、パーティクルカウンター等の浮遊塵測定の重要性が失われるわけではありません。この辺の関係にもなかなか深くて面白い物語がありますので、また別の機会に取り上げたいと思いますが、今のところは「浮遊塵と付着塵の測定はどちらも大切」だと理解して頂ければ宜しいかと思います。

 

以上駆け足ではありましたが、今回のテーマ「付着塵と風速」の関係についての話はおしまいです。この他にも付着塵の性質については興味深い結果がいくつか得られていますので、これらについてもまた機会を見つけてお伝えしていく予定です。