改善トピックス

第10回 「品質のボトルネック」


工場で発生する異物問題の原因は多岐にわたるため、その改善は常に全体像を捉えながらバランス良く進める必要があります。異物はあたかも工程の最も弱い部分を狙って侵入する意思を持っているかのように、最終的な品質レベルはこの弱点に引きずられる傾向があります。この意味で異物対策は単独の種目別競技ではなく、5Sレベルを始めとして工程を漂う浮遊塵の量や、素材の付着塵の量など様々な種目で工場全体のレベルが問われる、いわば改善の総合格闘技と言えるかもしれません。

 

著書「ザ・ゴール」の中でゴールドラット博士の唱えた制約理論ではプロセスには処理能力上の“ボトルネック”存在し、これが決して同じ場所にとどまっていないため、プロセスの改善は常にこのボトルネックを捉えてフォーカスする必要がある事を示しています。

私は異物問題にも“品質上のボトルネック”とでも呼ぶべきものが存在し、日々性質や影響度を変えながら工場内を動き回っていると考えています。多くの場合一つの原因に対策を行う事で解決できるような問題ではなく、その構造は複雑で工場に広く分散している上に常に変動しますので、不良原因の追跡と対策は果てしのない鬼ごっこになる場合も多く、泥棒が逃げたあとを一所懸命に捜査しているような事もしばしばです。

 

 

しかしながら問題の構造がどれだけ複雑でも、その時々に働きかけるべきポイントは多くありません。もちろん個別の事象は適切な方法で「見える化」できている事が前提ですが、次の段階では見える化の結果を統合し全体像を俯瞰しながら働きかけるべきポイント(=ボトルネック)にフォーカスする仕組みが必要になります。

この仕組みとして私は様々な工場の改善を進めながら改良を続けている独自の工場診断フォーマットを使用しています。これは現場訪問時には調査を漏れなく効率的に進めるためのチェックシートとして、最終的にはそれぞれの工場に必要な品質レベルに則した判定基準に照らした評価を行い、結果を可視化するためのツールとして機能します。

 

新たな可視化・定量化の手法が開発される毎にこのフォーマットも進化しますが、2018年6月現在、「浮遊塵」や「付着塵」他の計10カテゴリーの105項目について評価を行い、自動的にポイントを算出しています。この結果改善が必要なカテゴリーや項目(=弱点・ボトルネック)が明確になり、過去の結果との比較もできるため改善の道標ともなります。

 

 

工場も人間と同じで病気にもなりますし、切れば痛みも感じ血が出ることもあります。

私たちが体の不調を感じて病院に行った際に、体温測定や問診の結果だけで医師から「どこか悪そうですので、取りあえず手術をしてみましょう」と言われたら相当びっくりすると思います。やはりしかるべき検査をし、必要に応じてレントゲンやMRI、内視鏡などの検査機器(これらも見える化ツールですね)を利用して総合的に判断した上で説明をして欲しいと言うのが普通の感覚でしょう。

 

今回紹介した工場診断フォーマットは私たちが人間ドックを受診した際にフィードバックされる診断結果表がモデルの一つになっていますが、人間ドックのように工場の全体像をスピーディーにもれなくチェックした上で問題点(=ボトルネック)の所在と優先順位を明らかにすると共に、全体的な改善効果を測定するためのツールとして重要な役割を担っています。