【連載バックナンバー】

見える化で進める異物不良対策


第17回 IoTによる見える化

 

近頃IoT(アイ・オー・ティ)という言葉を聞く機会が増えています。皆さんの周りにも既に何らかのIoT関連機器があるかもしれません。これまでこの連載では塗装異物不具合関連の見える化手法や対策についてご説明してきましたが、今回はこれにIoTを活用する方法についてお話してみたいと思います。

 

IoT(Internet of Things)とは?

 

IoTは”モノのインターネット”とも呼ばれ、一般的には家電に代表されるような様々な機器がインターネットなどに繋がった状態を表わしますが、実際にはIoTはもっと裾野が広く、私たちユーザーが能動的にデータを取得したり、インターネットに接続したりといった、これまでIT技術者にしか手が出せなかった領域のハードルを下げる、いわば「かゆい所に手が届くIT技術」という側面があります。これはIoTの発展によって処理装置やセンサー等ハードウェアの価格が下がると共に、そうした部品を世界中から迅速に調達可能になった事や、ソフトウェアの開発環境が進化して誰にでも簡単に、かつ低コストで利用できるようになった事によります。多少乱暴な言い方をすれば、今までメーカーの既製品を購入するほか無かった見える化のための装置や測定器が、ニーズに応じて誰にでも作れる時代になりつつあるのです。

 

こうしたIoT技術の見える化への活用の一例として「洗浄力ロガー」をご紹介します。以前私が携わった工程で異物対策などのために素材を水洗する洗浄装置がありました。洗浄装置は水質や水温に加えて洗浄水の水圧が重要なファクターで、ポンプの故障や配管の詰まりなどで水圧が低下すると様々な不具合が発生します。またこうした洗浄不具合は往々にして塗装直後には発見できず、ある程度の時間が経過した後で大量の市場クレームに発展する危険性があるという、塗装業者にとって最も怖い問題の一つです。このため洗浄装置を持つ工程ではポンプや配管各所の水圧を管理する訳ですが、果たしてこれで十分なのでしょうか。例えば洗浄装置のメンテナンス中のミスによってノズルが全く別の方向を向いてしまったらどうでしょうか。圧力計などではこの変化は捉えられないでしょう。もちろんメンテナンス後の目視確認を作業指示書に書き込むことは出来ますが、これだけで市場クレーム多発のリスクに立ち向かうのは無理があります。

 

結局この件では紆余曲折の末、素材にかかる水圧を直接測る他ないという結論に至ったのですが、問題はこのような測定器がなかなか見つからない事でした。恐らく世の中には存在するのだと思いますが、ニッチな上に高圧の水を浴びる過酷な環境ということで測定器として商品化するには余り魅力のない領域なのかもしれませんし、ニーズが少なければ高価なものになるでしょう。そこで手頃なものが無いなら自力で作ってしまおうという事で製作したのが洗浄力ロガーです。

 

この手のひらサイズの装置は圧力センサー(ロードセル)や温度計、信号処理装置、記録用SDカード、バッテリーなどを防水ケースに収めており、製品を洗浄するのと同様に洗浄装置に投入することで、洗浄水圧と水温が1秒おきに記録された「洗浄力プロファイル」を見える化することができます。これによってこれまで洗浄装置の圧力計や温度計を記録したり、ノズルの向きを目視確認したりしてきた目的の多くを、一度により精度良く達する事が出来るようになりました。また材料費だけで言えばこの装置は1万円以下で出来ています。

 

もちろん専門のメーカーさんが作ればもっと洗練された製品になると思いますし、既存の測定器で計測できるならそれを使うのが多くの場合ベストな選択です。その反面、市販品で誰にでも見えるようになった部分から差異を生み出すのは難しいでしょう。当たり前の視点の先にあるのは、当たり前の風景です。世の中に無いのなら自ら作ってしまいましょう。既製品が無いのはむしろチャンスなのかもしれません。

 

2020年から小学校でプログラミングが必修化されるようですが、今回のお話しはこのプログラミング技術の延長でもあります。私が社会人になった約30年前、一部の人間の技能だったマルチプラン(古いですね)がエクセルに進化するのに伴って社会人の必須スキルになったように、現在若干マニアックな印象のあるIoTやプログラミング技術が近い将来には改善の必須スキルになるのだろうと私は予想しているのですが、さて如何でしょうか。

 

次回は連載最終回です。