空気中に漂うホコリなどの異物は浮遊塵と呼ばれます。浮遊塵は重力や空気の流れによって移動し、塗装前の素材や塗装後の製品表面に付着することで異物不良となるため、工程内の浮遊塵の量を一定量以下に管理することが重要になります。
浮遊塵の性質
浮遊塵は基本的には重力によって落下して製品や床面などに付着します。一度落下し床面などに付着した異物でも、一定以上の風速があると再び舞い上がって浮遊塵となり、素材や製品に付着する機会を狙いながら工程内を漂います。
今、この瞬間に私たちが呼吸をしている空気にも無数の浮遊塵が含まれていますが、PM2.5と呼ばれるような2.5μm以下の微細な浮遊塵はもちろん、塗装不良を引き起こす20μmや50μmといった比較的大きな浮遊塵でも通常は目には見えません。このため異物対策は多くの場合、目隠しをされながらの戦いになるため難易度が高くなります。この状況を乗り越えて異物不良と戦うための強力な武器が今回取り上げる浮遊塵の可視化手法です。
映画館で上映中に館内後方を振り向いた時、映写機の光軸に空気中のホコリがキラキラと浮かび上がる光景が思い浮かぶ方は多いのではないでしょうか。
あるいは朝方布団を上げる際などに、窓から差し込む朝日の中にホコリが舞う情景もイメージしやすいかもしれません。
これらはいずれもチンダル現象と呼ばれる光の散乱現象によるもので、浮遊塵の可視化にはこの原理が利用できます。
チンダル現象と光源の種類
チンダル現象は数種類の光の散乱現象の総称で、非常に小さな物体に光線が当たった際の光の挙動を表します。
特徴的なのは、数十μm以下の微細な粒子に当たった光線の多くは斜め前方に散乱されるという事です。このため、異物の可視化に適したポジションは、光源の斜め前方の光源に対向する位置という事になります。
先の映画館の例では偶然ながらこのポジションにいた訳ですね。この他にも上映中の館内は“暗く”、映写機の光源が“高輝度”で“照射角が狭い”という可視化に適した条件が揃っています。
とは言え、映写機を現場に持ち込む訳にはいきませんし、一昔前までは強力な光源も一般的ではなかったため、この現象を異物対策に利用することは簡単ではなかったのですが、近年様々な光源の高品質化・低価格化が進んで、異物対策の必携ツールとなっています。
この用途に使われる光源の代表格がHID光源です。従来の光源に比べ高輝度で消費電力が少なく寿命も長い事から、私も利用する機会が多い光源の一つです。異物可視化用途で市販されている製品もあり、性能的には光束3000lm(ルーメン)以上で照射角度が狭いタイプのものが適しています。価格的には10万円前後からとなります。
一方近年進歩の著しいLED光源でもこの用途に利用可能な製品が現れています。現状輝度の点ではHID光源には及ばないながらも1万円以内で導入可能で、軽量・コンパクト・長寿命な点が魅力です。これから異物の可視化を始める場合にはこのLED光源がお薦めで、性能的には光束数千ルーメンで狭角照射のものが市販されていますので、こうした中から選択されると良いと思います。
この他に特殊な光源として異物可視化性能が非常に高いレーザー光源を選択する場合もあります。高出力で視認性が良いグリーンレーザーをシート状に広げて照射する事でHID光源よりもさらに微細な異物の可視化が可能で、比較的明るい環境下で浮遊塵を可視化することも出来ます。この用途のレーザー光源は通常数百万円で、一般的には高価な装置となります。
いずれの光源でも安全上の注意として、強力な照射光で目を傷めないよう光源を直視しない事と、必要に応じて保護メガネを着用するなどの配慮が必要となります。
今回ご紹介したような光源を使って現場を確認すると、高性能フィルターを装備しクリーンである“はず”の工程に多くの異物が浮遊していたり、キレイな“はず”の防塵服などから信じられないほど多くのホコリが発生していたりすることに衝撃を受けるケースは決して少なくありません。まさに「百聞は一見に如かず」なのです。皆様の現場でも是非こうした可視化手法を利用して、実際に目で見て確認することをお薦めします。
次回は可視化手法を一歩進めて、空気中を浮遊している異物の量を数値化する“定量化手法”を取り上げます。